部屋にものがありすぎる。
締め切りに追われている時期に限って唐突に断捨離欲が出るのだけれど、うまくいった試しがない。わたしは、台所や洗面所まわりの日用品・消耗品を安売りの時にまとめ買いすることに日々の楽しみを見出しているので(貧乏人……)、気を抜くとすぐに部屋が倉庫のように雑然としていくのだが、しかしここでの主犯は他でもない。本である。
地域の蚤の市(r. Flohmarkt)に行くと面白そうな本がゴロゴロ転がっている。大学のキャンパスでも、図書館のロビーなどあちこちで、古本が販売・譲渡されている。気になったものを手に取って、裏表紙のあらすじを読む。作者紹介に目を通す。年季が入っていればいるほど誘惑的だったりする。「念がこもっていそう」だとなおよい。
古本には時折、見開きページに手書きのメッセージが書き込まれているものがあって、どこの誰とも知らない他者のうねうねした直筆を解読しながら、こういう私的で心のこもったプレゼントが、紆余曲折の末、蚤の市の1冊50セント均一の安売りダンボール箱へ行き着いたその経緯を妄想してしまう。そこに綴られているのは、本の著者からの謹呈の言葉だったり、誕生日を祝うロマンチックな詩だったりする。この機会を逃してしまったら、二度と「この」本には出会えないのではないか、などと考え始めたらもう負けである。
ほくほくと本を家に持ち帰り、「ドイツ語(英語)の勉強になるかも」と心を弾ませて本棚に並べる……のに読まない。溜めこむ。開いては閉じ開いては閉じ。それこそよっぽど本に失礼な気がするが、購入した時点で所有欲が満たされて、読まずに満足してしまう。読みたいのなら図書館に行って借りればいいのに、なぜそれができないのか。……いや図書館へは週に何度も行っているし、本はしょっちゅう借りる、それもそれで積読として部屋の一角に鎮座している(こっちは返却しないといけないので、だいたいちゃんと読む)。本を読まずに捨てる人と本を読まずに溜める人、果たしてどちらが悪質なのかしら。